リンパ管と言うのはその概念が何となく理解されにくく、昔ながらに”何となく不思議な神秘的な存在”である側面もあるかと思います。リンパ管は心臓、動脈、静脈と同様にいわゆる脈管系に属します。例えば脚を考えると、動脈から流れてきて組織を潤したのち、使われた後の体液は静脈とリンパ管によって排除され、心臓へ向かって戻っていきます。ここで、静脈は動脈ー毛細血管ー静脈と循環するひとつの回路ですが、リンパ管は毛細血管領域に存在する盲端から始まり心臓方向へ向かう一方通行の還流路で、心臓近くまで行って静脈に合流します。なぜ、わざわざ静脈ではなくいったんリンパ管に分けて心臓へ還流しなくてはならないのか不思議ですが、リンパ管は単に心臓への還流だけでなく、途中にリンパ節などを備えて免疫機能などにも大きく関与しています。腋窩や鼠径リンパ節を切除すると還流ができないので体液が貯留して腕や脚のリンパ浮腫が発症しますが、同時にリンパ節等の関係でその流域の免疫機能も低下しますので、簡単に言えばリンパ浮腫における蜂窩織炎なども起こることになります。
毛細血管領域で動脈側から運ばれて組織を潤した後、静脈とリンパ管に還る、という図式は微小循環領域におけるStarlingの法則としてとても有名ですが、最近はその考え方自体が実は違っている、とされています。ですがここではこれまでのStarlingの法則に従って話を進めます。
排水路としての静脈とリンパ管の働きの違いを洗面台で考えてみます。静脈は洗面台の下面についているいわゆる排水管ですが、リンパ管は側面についている小さなオーバーフロー孔にあたります。万一排水管(静脈)が詰まっても水が溢れないようにオーバーフロー孔(リンパ管)が働きます。ほとんどのむくみは静脈が関与していますが、もしオーバーフロー孔(リンパ管)の働きがもの凄く良かったら、たとえ排水管(静脈)の流れが悪くても水は溢れる(むくむ)ことはありません。ただし、リンパ管の働きは無限大ではありませんからその時はむくんでしまうことになります。そのため、いかなるむくみもリンパ管の働きが足りない、リンパ管の代償不全と言う事ができます。すなわち、むくんでいない時はリンパ管はあまり動いていなくて細いけれど、むくんでいる時はむくみを少しでも減らすべく精一杯動いて液もたくさん含んだ太いリンパ管になっていることになります。したがって、極端に言うとすべてのむくみはリンパ浮腫とも言えてしまいますが、当然それは誤りです。一方、オーバーフロー孔(リンパ管)の働き自体が悪くなったものがリンパ浮腫です。
リンパ管(オーバーフロー孔)へ入る絶対量は少なく、しかも、ちょうどこのたとえ通り、リンパ管(オーバーフロー孔)は必ずしも常に働いているわけではなく、洗面台に水が溢れそうになると流れ、少なくなると止まるので、動いたり止まったり、太くなったり細くなったりしています。そのため、量自体が少ないこともあり、リンパ管の働き(動きや大きさ)を一定のデータとして数値化する事はとても難しいのではないかと思わされる側面があります。
臨床の場で何となく分からないむくみを”リンパ浮腫”とされているケースは多いように思われます。上記のように考えてみると一面でそれは正しいとも言えますが、本来リンパ管の働きが悪くなったものだけをリンパ浮腫としないと誤りであることはご理解いただけると思います。近年、リンパが知られてくるにつれて、単なる起立性浮腫や肥満性浮腫などがリンパ浮腫と診断されるなど、あまりに”リンパ浮腫”が増えすぎているようにも思います。その結果として”リンパ浮腫の治療”が行われてしまうと無駄でもありますし、治療効果も得られるはずがありません。
私はこんな不可思議なリンパに魅せられて数十年を過ごしてきました。最近リンパ浮腫が知られ始め、リンパ管の解剖や機能がデータ化される努力がなされている事には時代の流れも感じますし、研究されている多くの方々に敬意を表しますが、一方で、上記のような本態を考えると、どこまでデータ化できるものかな、とも思ってしまいます。有効なリンパ浮腫の治療に結びついてくれることを期待しています。(箱根神社 廣田彰男)
