イメージしやすい婦人科がん術後右脚のリンパ浮腫を考えてみます。 脚からのリンパの流れは鼠径リンパ節切除部位でブロックされ、鼠径周辺にむくみは溜まります。リンパ管は皮下組織内のタンパクを排出しますので、排出されないとタンパクが貯留し、蛋白濃度の濃いむくみが溜まります。人間は立って生活しますので、その濃いむくみは足先に向かってゆっくり落ちていきます。したがって、リンパ浮腫では脚全体にタンパク濃度の濃いねっとりしたむくみが溜まることになります。ちなみに低栄養性浮腫などではむくみは水分が主体ですのでむくみは大腿を通り抜けて,ゴム風船に水を入れた時のように、膝下中心にタポッと溜まります。
したがってリンパ浮腫の治療の基本は、この落ちてくる力ー重力に負けないようにすることが最も重要です。ですので本当はずっと寝ていると脚全体はむくまないことになります。そのため脚がむくんできた方が何らかのご病気で入院などするとむくみは消えてしまいます。
ですが、日常生活ではそうはいきません。どうしても立ちますから、むくみは足先に向かって落ちてきます。それをしっかり押さえて落ちないようにするのが弾性ストッキングです。足首には心臓からの水の重さ(約80㎟Hg 、120㎝水中圧、日本人は小柄なのでこれより低い圧になります)の圧がかかりますので、それに負けないような圧で押さえないとむくみを抑えきれません。そのため強圧40~50㎟Hg (クラスⅢ)や中圧30~40㎟Hg(クラスⅡ)の弾性ストッキングを着用します。このように、リンパ浮腫の治療の最も基本は重力に負けないようにする、上げるか押さえるかの、”圧”です。 そこにさらに、どうせ横になっているならリンパ管を動かしてリンパの流れをよくしてあげればもっと良いとするのがリンパドレナージと言う事になります。
リンパ管は皮膚表面に近い毛細リンパ管がむくみの液を集め、より深部の集合リンパ管へ送り込み、集合リンパ管がリンパ液を心臓方向へ送ります。ここで毛細リンパ管は皮膚表面で、集合リンパ管は深部(筋肉・筋膜の上)に位置しますので、できれば深部の集合リンパ管を動かしてあげると良いことになります。その際、リンパドレナージでは皮膚表面から深部まで手の力は届きにくい点がありますが、筋肉を動かしてあげると、奥の方からより効率的に集合リンパ管を刺激することができます。すなわち、運動療法で筋肉を動かすことが効率が良いと言う事になります。ちなみに弾性ストッキングは強く圧迫してむくみが落ちてこないようにすると同時に、弾力もありますから、脚を動かしているとリンパ管をより強く刺激してマッサージ効果(リンパドレナージ効果)を期待できます。
このような考え方をずっと以前に講演で、図のように書いて説明していました。リンパ浮腫治療のもっとも基本は患肢挙上、次いで弾性スリーブ・ストッキング、がその効果の半分以上を占め、次いで運動やリンパドレナージなどのマッサージ効果(当時、その有資格者は理学療法士さんのみでした)、そして最後に薬(エスベリベン®という薬が使われていました)や手術(当時は旧来の方法でした)などのリンパ流促進の方法です。
興味深いのは、最も基本である”圧”はすべて自分がやることであり、運動療法も同じく自分でします。リンパドレナージは自分でもしますが、他人にやってもらうことも可能となり、当然ながら手術は完全に他人任せです。ここで、自分でやる分にはお金はかかりませんが、リンパ流促進を期待して他人にお願いする部分が増えるに従って費用が発生するのは少々皮肉な面です。つい他人に何かやってもらう方がありがたみがあるように思ってしまいますが、リンパ浮腫はまずセルフケアであり、その効果が圧倒的に大きな部分を占めます。(廣田彰男)
